著者であるジンサンが奥さまの月(ゆえ)さんに経済のことを語るエッセイコミック「キミのお金はどこに消えるのか」略して「キミ金」。
前回のエントリーでは日本の財政問題、信用創造、緊縮財政などについてまとめてみました。
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【経済】「キミのお金はどこに消えるのか」
「キミのお金はどこに消えるのか」井上純一:著
主に日本の経済について描かれたエッセイコミックです。続きを見る
この本は他の経済の解説漫画と違って、ジンサン、月さんの普通の生活者感覚が紙面に出ていて経済がとても身近に感じられます。
同時に政府や日銀の経済政策、金融政策に対する疑問、怒りのようなものが色濃く描かれていて、読みながら共感するところも多々ありました。
今回は本書の後半部分から消費税の問題、経済成長の問題、貧困の話しと雇用の問題についてまとめてみたいと思います。
消費税の問題
今年(2019年)の10月に消費税率を10%に上げることが法律で決まっていて、これを本当に実行するのか?それとも延期するのか?ということがよく話題になってますね。
この本の中で著者のジンサンは、言います。
消費税の税率を上げても税収が増えるとは限らない
これはその通りで消費税が導入される前と導入後の一般会計の税収を比べると、2%くらい税収が減っています。
では、なぜ消費税率を上げても税収は増えないのか?それはGDPが伸びてないから。つまり経済成長していないから、とジンサンは言います。
それに加えて、このような説明も。
実は政府の使うお金はろくに増えてなくて、ここ数年はむしろ減ってるくらい!!公共事業を減らし、社会保障費の国民負担を減らし、一方で消費税を上げているから・・・20年間デフレは続くし税収も上がらない
このあたり、消費税の話をしたり、財政支出の話をしたりして、読んでいて、ちょっと分かりにくいかもです。
私なりに要約すると、
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- 消費税は消費を押し下げ、市場から民間のお金を減らしてしまう。
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- 政府が使うお金もここ数年は減っていて、市場に出回るお金が少なくなっている
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- つまり、増税と財政支出の削減でお金の回りが悪くなっていて、それが経済成長(GDPの伸び)を妨げている
・・・ということが言いたいのかな?と思います。
でも、本当に今年の秋の消費増税はどうなるんでしょうね?気になります。
経済成長は「してしまう」もの?
はたして経済成長が必要でしょうか?!日本は20年来の低成長、デフレ、超高齢化、少子化で縮小していくしかありません。
しかし、これは世界を変える好機!!経済成長がすべてではありません。下り坂でも幸福な社会を・・・
こんな主張をする人がいますよね・・・というジンサンの言葉で始まる経済成長の話し。
無理して経済成長しなくてもいいじゃん!という論調は「清く、貧しく、美しく・・・」という「清貧」という考え方があるせいなんでしょうかね?
しかし、この本の監修をしている明治大学准教授で経済学者の飯田泰之さんが紙面に登場して、こんな説明をします。
GDPを生み出す力は何もしなくても年1.8%くらい成長してしまう
人間というものは同じことをしていても「もっといいやり方」を発見してしまうものなんです。効率化とか新発見で利益を生むのが年1.8%
経済成長はする方が自然なのです。
政策さえ間違えていなければ、経済成長はするもの。。。なのに!経済成長しないのは何故なのか?
(その答えは本書にてご確認を・・・ネタバレ自粛)
ここで印象的だったのは、次のような言葉でした。
「これ以上、借金をして未来の子供を苦しめるな!」
そう主張する人に対してジンサンは言います。
今は経済成長が必要なんだよ、子供たちのために。
我々が子供に残すべきは、借金とそれを返せる力です。
なぜ、子供に借金を残してもいいのか?それもちゃんと本に答えが書いてあります。
貧困問題と雇用
つい先日、経団連のエラいさんが「もう終身雇用、ムリ!」と発言して物議を醸しましたね。
振り返ってみると、就職氷河期、派遣止め、非正規などなど日本の雇用風景は随分と酷いものになったなぁと個人的に思っています。
この本には、日銀が日本の雇用に対してどれだけ無為無策であったか、あるいは間違った政策を行ったかという主張が書かれています。
リーマン以前のゼロ金利解除の失敗。リーマンショックのとき、世界各国が一斉に金融緩和を行ったのに対して日銀は静観するだけで何もせず、それが超円高を招いて製造業の海外移転に拍車を掛けて国内の雇用がより一層、深刻になったことなどなど。
まぁ、その後の黒田バズーカーでだいぶ雇用も回復してきましたが・・・
まとめ
政策を決めるのは我々選んだ代表による政府だから・・・
間違っている方に進んでいるなら・・・それは我々有権者のせい。
この本の中に出てくるこの言葉が、ある意味すべてだと思うんですよね。
わたしたちの税金を無駄遣いするな!
一見すると、すごく当たり前に感じるこの言葉。だけど、税金の無駄遣いをするな=歳出削減=市場に出回るお金が減って景気を押し下げる。
未来の子供たちにこれ以上、借金を残すな!
これも、前回のエントリーで書いた信用創造の観点から見ると、借金が減る=お金が増えないってことです。
「経済」と聞くと、よく分からない難しいものって思いがち。
だから、何となく普段の生活で感じるように無駄遣いは良くない、借金は良くないって判断しがちです。
だけど、この本を読むとそういう生活者としての一般常識が国の経済にとっては間違いである場合があることが分かると思います。
この本、上の方で書いたとおり経済の解説本ではない分、著者の主張が前面に出てきて、少し支離滅裂で分かりにくいところもあるかと思います。
でも、生活者としての一般常識と国の経済にとっての常識は必ずしもイコールでないと言うことだけは感じられるのではないでしょうか?
不景気を何とかして欲しい!そう思いながらも、生活者の一般常識に縛られて「経済」にとってマイナスの主張をする政治家を選ばないためにも、一読してみるのも良いのではないかと思います。
何よりもコミックなので、さっさと読めますしね。