「経済で読み解く日本史(4)明治時代」
上念司:著
飛鳥新社
「経済で読み解く日本史」の第4巻は明治時代です。
私、幕末が好きでその頃を描いた小説やドラマなどにはよく読んだり見たりしていたのですが、その後につづく明治時代はさっぱりです。
この本を読むまで有名な西南戦争のことも実はあまりよく分かっていませんでした。。
明治時代の最初は幕藩体制から近代的な中央集権国家へと変わるために多くの改革が断行されました。
しかし、その改革は多くの人々に不満をもたらし、やがて日清、日露戦争へとつながっていきます。
そういった改革はなぜおこなわれたのか?そして、なぜ日清、日露戦争へと突っ走ってしまったのか?
そういった時代の流れを当時の金本位制の話しや明治政府の経済政策などから詳細に解説されていて、読んでいて「そうだったのか!」と頷くとともに、平成、令和の日本にも通じるところがあり色々なことを考えさせられました。
アマゾンの内容紹介
人々は経済的に困窮すると、過激思想に救済を求める。金本位制は通貨供給不足になりやすいデフレレジームのため、世界経済は繰り返し恐慌に見舞われ、そのたびに過激思想が台頭した。秩禄処分への不平士族の「お金の恨み」が日本を対外戦争に駆り立て、新聞に煽られた世論は英米と離反・対決する道を選んでしまう。
廃藩置県
「廃藩置県」、学校の歴史の授業で習いましたよね。
江戸時代の「藩」を廃止して中央集権体制を目指して今も続く「府」や「県」に変えるというアレです。
今から思えば、これって明治政府による大胆なリストラでもあったんですよね。
かつての大名やその家臣たちはその後も明治政府によって給料は細々と支給されていたということは、学校の授業でも習いました。
この本を読んでいて新たに気づかされたのは、次のような視点です。
藩を廃止するということは、これまでの藩の抱えてきた様々な利権関係を全て精算することを意味します。その中には大名たちの借金も当然含まれます。
「経済で読み解く日本史」3巻の「江戸時代」の中には当時の諸大名がどれだけ多額の借金を抱えていたかが詳しく解説されていました。
明治政府は廃藩置県をおこなうに当たって「一応」この大名たちの借金も引き継ぎました。
・・・というか、大名たちに領地・領民を差し出させるために「借金も面倒みてあげますよ」というニンジンをぶら下げたというのが本当のところのようです。
莫大な大名の借金を引き継いだ明治政府でしたが、この借金をどうしたか?
これら引き継いだ債務を新政府がすべて返済したかというと、それは別問題です。
その借金の処理方法について詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、『ほぼ踏み倒し』です。
新政府、やることがエグいです。
不平士族
さて、「借金肩代わり」というニンジンと引き換えに領地・領民を手放した大名(その後の華族)と家臣(その後の士族)たちですが、新政府からの給与(年金?)は少ないし、世間からはバッシングを受けるしで、その生活は決してラクではなかったようです。
士族たちに残された道は2つです。この運命を受け入れて、平民として新しい仕事に精を出すか、再び侍として活躍する場を求めてリスクを取るか?
佐幕派の藩出身の士族は士族は前者を選択する者が比較的多かったのに対して、官軍側の士族は後者を選ぶ者がほとんどでした。
彼等は対外戦争に活躍の場を見出そうとしたり(征韓論)、国内で反乱を起こして新政府打倒を図ろうとしたりしました。
佐賀の乱、秋月の乱、そして西南戦争と不平士族たちが反乱を起こしましたが、全て新政府によって鎮圧されてしまいました。
教科書的にはこれらの反乱の収束をもって不平士族の武力による反抗はおわった・・・とされています。
しかし、表立っての反乱は収まったかもしれませんが不平士族たちの不満は根強いものがあり、この後の日清戦争、日露戦争、そして太平洋戦争までその影響はつづいたと著者は書いています。
日本の民権派の正体は、即時征韓論や西南戦争で夢破れた不平士族です。秩禄処分からすでに20年以上も経過していたのに、金の恨みは恐ろしい!ズタズタになった武士のプライドを、戦場で活躍することで取り戻そうとしていたのでしょうか?
江戸時代だけでも260年もつづいた武士の時代。その間に身についてしまった武士のメンタリティやさまざま利権などは一朝一夕には変えられなかったということでしょう。
過激思想
「経済的に困窮すると人々は普段は見向きもされない過激思想に走る」
これは、「経済で読み解く日本史」全5巻を通じて繰り返し著者が書いていることです。
不平士族たちが国内で反乱を起こしたというのはご承知の通りです。
新政府はそうした士族たちの不満をガス抜きするために台湾出兵までしたということは、この本を読んで初めて知りました。
そして上の方で書いたとおり、士族の反乱は収まったかのように見えましたが、次は「自由民権運動」という政治運動に転じていきます。
「賠償金ゼロ、領土の割譲なし」という日露戦争後の講和条約(ポーツマス条約)は学校の授業でもやるのでご存知の方も多いかと。
そして、その条約の内容に不満を持った人々が日比谷焼き討ち事件を起こしたというのも教科書が教えるところです。
この条約の内容が日本に伝わると、徳富蘇峰の「国民新聞」を除くすべての新聞は一斉に批判を始めます。いや、それは批判というよりは、国民のストレス発散のための誹謗中傷でした。
こういった人々の不満を徹底的に煽ったのが新聞です。
(中略)
その煽り方は2011年頃大ブレークしたTPP亡国論と同じです。極端な被害妄想と精神論に雑な陰謀論を組み合わせたもの。正直聞くに値しない妄言でした。
日露戦争の頃は士族の不満だけでなく、一般の国民も戦費調達のための増税や政府の緊縮政策に耐えていたんですね。
それだけに「賠償金なし、領土割譲なし」の条約内容に民衆の不満が爆発したのかもしれません。
最近も新聞、テレビは一部から「マスゴミ」と呼ばれて評判があまりよくありません。
時おり、マスコミは偏向報道をしたりフェイクニュースを流すなどして人々の不満、不安を煽ります。
ここ最近の「2000万円不足の年金問題」もその一つの例かもしれません。
しかし、人々が不満、不安を持つのは今も昔も経済的な困窮、つまり「不況」が根底にあるように思います。
この本を読みながら、今の日本が日露戦争後の世の中にダブって見えました。歴史は繰り返すということでしょうか・・・
平和への道
この本を読むとポーツマス条約で賠償金を放棄するという英断を下したのは明治天皇であることが書かれています。
この明治天皇の英断を受けて著者はこのようなことを書いています。少し長いですが引用します。
天皇陛下の御英断の意味を当時の日本政府および国民はもっとよく考えておくべきでした。なぜなら、この道こそ本来日本が進むべき道だったからです。
これを現代の戦略の言葉で言うと「平和的台頭」と言います。
日本はひたすら世界に貢献し、徐々にその役割分担を広げていく。そうしているうちに、世界のさまざまな仕組みが日本無しに成り立たなくなる。この時初めて日本の覇権が確立するのです。
武力を背景に他の国々を脅すだけが覇権の道ではなく、平和貢献を通じて覇権を取るやり方もあるということですね。
でも、残念ながら日本は道を誤ってしまいました。。
後の太平洋戦争につづく諸要因はこの頃すでに萌芽があったと著者は説いています。
歴史に「If」はないとよく言われますが、「もしもあの時・・・」と書かれた文章を読みながら、先の大戦の大きな犠牲の原因はこんなところにもあったのか!ということを教えられました。
まとめ
明治時代の初期はそれまでの幕藩体制から近代的な中央集権的な国家を目指すためにさまざま改革がおこなわれました。
しかし、急激な改革はいつの時代でも、どこの国であっても必ず大きな揺り戻しが起こるというのは歴史が教えてくれるところだと思います。
明治の日本も例外ではなく、士族や農民たちの反乱が相次いだのは教科書が教えてくれているとおりです。
しかし、その背景には当時の日本(というか世界各国)が採用していた金本位制の弊害があったというのは、この本を読むまでは私もよく分かっていませんでした。
この本を読むと、金本位制はデフレを招きやすい仕組みであることが分かります。
デフレと緊縮政策による不景気がさまざまな混乱を招き、最終的には不幸な戦争によって多くの命が犠牲になってしまったのです。
令和になった日本も相変わらずデフレからの完全脱却ができずにいます。それに加えて年金やら増税やらで生活に不安をもつ人が多いように見受けられます。
著者によれば、こういう経済的な困窮や不安は人々を過激思想に駆り立てるそうです。
この本を読みながら私は何度も明治の頃と今の日本がダブって見えました。
歴史を学ぶ意味って、学校の授業のように単に出来事や年号を覚えることではないと思います。
この本の後半で展開されている日露戦争の背景などから、当時は何が問題だったのか、どこで道を誤ってしまったのか、という教訓を学び私たちの未来に生かすことが大切だと思うのです。
「歴史(を)学ぶ」のではなく、「歴史(に)学ぶ」ことが大切なんですよね。
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