●FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
●ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド:著
●上杉 周作、関 美和:訳
●日経BP
[st-kaiwa1]世界で300万部も売れた大ベストセラーなので、既にお読みになった人もいますよね?[/st-kaiwa1]
この本が日本で出版されたのは2019年1月。
新型コロナによる世界的なパンデミックが起こるより以前のこと。
だけど、日本で起きた新型コロナ騒動をこの「FACTFULNESS」で読み解くと、色々なことが見えてくることに気がつくと思います。
今回の記事では、この本の内容を紹介しつつ、新型コロナ騒動と結び付けて考察してみたいと思います。
アマゾンの内容紹介
ファクトフルネスとは――データや事実にもとづき、世界を読み解く習慣。賢い人ほどとらわれる10の思い込みから解放されれば、癒され、世界を正しく見るスキルが身につく。
世界を正しく見る、誰もが身につけておくべき習慣でありスキル、「ファクトフルネス」を解説しよう。
FUCTFULNESSとは?
私たちはチンパンジーよりも世界を知らない?!
最初にクイズです。ちょっと考えてみてください。
[質問] 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A・約2倍になった
B・あまり変わっていない
C・半分になった
答え・・・・C・半分になった
正解できましたか?
不正解でも落ち込む必要はありませんよ。
著者はこうした世界に関する質問を何千という人にした結果、多くの人が間違えたそうです。どんなに優秀といわれる人でも間違えたのだとか。
ちなみに、この貧困に関する著者の質問に対する正解率は平均で7%!(アメリカでの正解率はたったの5%だった!!)
では、もう1問。
[質問] 世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子供はどのくらいいるでしょう?
A・20%
B・50%
C・80%
答え・・・・C・80%
この問題の平均正解率は13%だったと言います。
単純に考えれば、3択問題なので適当に答えても正解する確率は1/3、つまり33%になるはずです。
つまり、チンパンジーに正解をA・B・Cと書かれたバナナで選ばせるというクイズをやれば3問に1回くらいは正解するんですよ。
だけど、人間はチンパンジーよりも正解率が低くて、著者によれば12問のクイズに対して2問くらいしか正解できなかった。つまり、正解率は16%でチンパンジーの半分くらいです!
なぜチンパンジーに負けてしまうのか?
あまりに間違う人が多いので、著者はその原因は何だろうと疑問に思い仮説を立てながら色々なことを考えます。
そしてたどり着いた答え。
それは「ドラマチックすぎる世界の見方」でした。
例えば次のような「先入観」を持っていませんか?
「世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源ももうすぐ尽きてしまう」
これが著者がいう「ドラマチックすぎる世界の見方」です。
しかし実際は・・・
時を重ねるごとに少しずつ、世界は良くなっている。何もかもが毎年改善するわけではないし、課題は山積みだ。だが、人類が大いなる進歩を遂げたのは間違いない。これが、「事実に基づく世界の見方」だ。
人々が思ってるほど世界は悪くなっていないし、逆に世界は少しずつ進歩をつづけているのです。
ここでもう一つの疑問。
なんで私たちはネガティブに、そしてドラマチックに世界を見てしまうのでしょうか?
著者によれば、それは私たちの脳の仕組みと関係があるといいます。
人間は進化の過程において、危険から身を守るために瞬時に判断する能力や、ドラマチックな話しに耳を傾ける習性を身につけてきました。
それが今では、世界について誤解を生む原因になってるのです。
10の思い込み
私たちが世界を誤解してしまう脳の習性について、この本では以下の10の思い込みについて解説されています。
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- 分断本能 「世界は分断されている」という思い込み
- ネガティブ本能 「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み
- ネガティブ本能 「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み
- 直線本能 「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み
- 恐怖本能 危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み
- 過大視本能 「目の前の数字がいちばん重要だという思い込み
- パターン化本能 「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み
- 宿命本能 すべてはあらかじめ決まっているという思い込み
- 単純化本能 「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み
- 犯人探し本能 「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み
- 焦り本能 「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み
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「FACTFULNESS」とコロナ禍
この本を読んでいると、書かれている内容のいくつかが現在進行形のコロナ禍と符合してして面白いなぁと思いました。
ここからは個人的に面白かった点をいくつか書いてみます。
ガイジン病
近代医学が発達するより以前、最悪の皮膚病は梅毒だったそうだ。
その梅毒について、次のような興味深いことが書かれてます。
この病気は、国によって呼び名が違っていた。ロシアではポーランド病と呼ばれ、ポーランドではドイツ病と呼ばれた。ドイツではフランス病。フランスではイタリア病。イタリアはやり返したかったのか、フランス病と呼んでいた。 誰かに罪を着せたいという本能は、人間によほど深く根付いているのだろう。
これ、調べたら15世紀とか16世紀の頃の話しですよ。
「まったく、人間っていうのはいつまでも変わらないんだなぁ」って思ってしまいました。
だって今、新型コロナの変異種について「アルファ株」とか「デルタ株」というワードが聞かれるようになりましたよね。
ご存知のように、これはWHOが特定の国への偏見や風評被害を回避するために「イギリス株」とか「インド株」ではなくギリシャ文字による呼称を提唱したからです。
・・・って、500年前の梅毒の話しと何も変わってないじゃん!
わたしたちは他人を責めたがるし、その病気を持ったガイジンがひとりでもやってきたら、出身国全体に喜んで罪をなすりつける。
このコロナ禍、海外ではアジア人であるというだけで偏見や時に暴力を受けるというニュースがありましたが、それはつまり、ガイジン病なわけです。ウイルスよりも人間の方がよほど恐いでござる。
どうしてメディアは不安を煽りまくるのか?
個人的には今回のコロナ禍で信用を失墜したのはメディアと一部の専門家だよなぁって思ってます。
メディアが信用できない!というのは何も日本に限ったものではなく、この本にも次のようなことが書かれてます。
メディアは中立的ではないし、中立的でありえない。わたしたちも中立性を期待すべきではない。
むしろ、ジャーナリストの世界の見方がどうして歪んでいるのかを理解しよう(正解:人間には誰しもドラマチックな本能があるから)。そして、歪んだニュースやドラマチックな報道をしてしまう背景にはどんな組織的な要因があるのかを知るよう努力すべきだろう(部分的な答え:視聴者の目を引きつけられなければクビになってしまうから)
人間は本能的にネガティブな話しが大好きなので、メディアは今回のコロナ禍での煽り報道も、この「恐怖本能」を利用しているのは明らかですよね。
このようなメディアに対する著者の言い分をざっくりまとめると、次のような感じ。
- メディアは中立的ではない
- 中立的ではないメディアに文句を言っても何も始まらない
- なぜメディアが歪んだ報道をするのかを理解しよう
そして極め付けは以下のもの(辛辣であること、この上なし!)
メディアは現実を映し出す鏡にはなれない。事実に基づいた世界の見方をメディアに教えてもらおうなどと考えるのは、友達の撮った写真をGPSの代わりにして外国を観光するようなものだ。
蛇足ながら、メディアは今回のコロナ禍でも自分たちにとって都合の良いコメントをしてくれる専門家を多用してますよね。
でも、その専門家のなかには「?」って人もいましたね。
医療の専門家の中には、医療についてひとつの凝り固まった見方しかできない人や、特定の治療法にこだわる人がいる。
専門知識が邪魔をすると、実際に効果のある解決法が見えなくなる。その知識が問題解決の一部に役立つことはあっても、すべての問題が彼らの専門知識で解決できるわけはない。さまざまな角度から世界を見たほうがいい。
「国民全員にPCR検査をしろ!」とか承認薬でもないのに「なんでアビガンを使わないんだ!厚労省は及び腰だ!」とか言ってたのは、何だったんでしょう?
令和の禁酒法は適切な判断だったのか?
感染の拡大が拡がると国や自治体はさまざまな自粛要請を出しましたよね。
そのなかでも飲食店への営業自粛や酒類の提供禁止については色々と物議を醸しました。
●過激な対策に注意しよう。大胆な対策を取ったらどんな副作用があるかを考えてほしい。その対策の効果が本当に証明されているかに気をつけよう。地道に一歩一歩進みながら、効果を測定したほうがいい。ドラマチックな対策よりも、たいていは地道な一歩に効果がある。
とにかく感染拡大を防がなければ!という焦りが、より過激な対策を取らせたともいえるのではないでしょうか?
そして、その対策による副作用への補償などが充分ではなかった面があることも否めませんね。
焦り本能を刺激して人々を行動させることはできるけれど、それが不必要なストレスになったり、間違った判断につながったりすることもある。社会貢献活動への信頼や信用が失われてしまうことにもなりかねない。緊急警報に慣れっこになると、本当の緊急事態に気づけなくなる。
感染が拡がるたびに繰り返し発出された「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」。
最初こそみんな頑張って外出自粛を守ってましたが、今はもう政府や自治体が何を言おうが、人の流れを止めることはできなくなってしまいました。
挙げ句の果てに令和の禁酒令と同時に目立ち始めた、いわゆる「路上飲み」。
メディアでマスクもしないで路上で飲酒する人たちの姿を目にするたびに思います。「緊急警報に慣れっこになると、本当の緊急事態に気づけなくなる。」
名もなきヒーロー
どんなにメディアが不安を煽ろうが、政権を批判しようが、欧米諸国と比べて日本が感染者も犠牲者も少なく抑えこんでいるのは、多くの名もなきヒーローがいたからではないでしょうか?
人類の成功はたいてい力のある偉大なリーダーのおかげとされ、普通の人たちはその陰に隠れてしまう。でもわたしは、普通の人を讃えたい。世界の発展に貢献してきた名もなきヒーローを讃えて、パレードをしようじゃないか。
ものすごい勢いでワクチン摂取が進む様子を目にするたびに私は、日本の底力はやはり「現場力」だなぁと思ってしまいます。
そして、その現場力を支えているのは多くの名もなきヒーローのみなさんだと思うのです!
ちなみに、ここに書かれているように人類の成功は偉大なリーダーのおかげだと思いがちだし、そういうリーダーは注目もされますよね。
しかし、本当にそうでしょうか?
悲しいくらいに無能な大統領のいる国でも進歩している。一国のリーダーなんてそれほど重要じゃないんじゃないかと思ってしまうほどだ。おそらくその見方は正しい。国を進歩させるのは、社会を築いてくれる数多くの人々だ。
「犯人探し本能」に駆られて誰かを指差す前に、コロナ禍の日本を支えてくれている現場にいる名もなきヒーローの皆さんに感謝したいですね。
最後に・・・自分自身を批判的に見る目を忘れてないか?
新型コロナに限らず、私たちは日々、メディアやネットなどを通じて多くの情報に触れてますよね。
そうした多くの情報の大半は右から左へと流れ去っていきます。
そして残った、ほんの一握りの情報に対して私たちは、あーだ、こーだと感想を述べたり時には批判したりしてるわけです。
まぁ、どんな感想を持とうが、どんなことを発言したり発信するのも個人の自由ではあります。
だけど!
訳者が最後に書き記しているこの言葉を忘れてはいけないと思う。
「『ファクトフルネス』を通じて人々に伝えたいのは、情報を批判的に見ることも大事だけれど、自分自身を批判的に見ることも大事だということ」
少し話しがそれるけど「エコーチェンバー現象」って言葉をご存知ですか?
エコーチェンバー現象(エコーチェンバーげんしょう、Echo chamber)とは、閉鎖的空間内でのコミュニケーションを繰り返すことによって、特定の信念が増幅または強化されてしまう状況の比喩である。(出典:ウイキペディア)
ネット空間って広いように思えて、実は狭いように思うんですよね。
なぜか?
例えばSNSだって、自分の友人だったり自分と似たような考えの人をフォローしますよね。
そして、自分とは相容れないような人はフォローしないし、時にはブロックしちゃうじゃないですか。
その結果、自分と似たような意見、似たような趣味嗜好の人の発言を多く目にするようになるんです。
私は「訳者あとがき」にある次の文章を読んだ時に、このエコーチェンバー現象のことを思い出しました。
「マスコミや、大企業や、政治家が言うことは信用ならない」と思ったら、ネットで検索すれば、すぐにもっともらしい「真実」が見つかります。たとえ見つからなくても、自分の頭で考えた「真実」をネットで発信すればいい。ただ、それらの「真実」が事実に基づいているとは限りません。
政治家や知識人と呼ばれる人たちの発言を目にしたとき。
それに同意する場合でも、批判的に感じる時でも、無意識のうちに自分と似たような他の有名人の発言に「いいね」してませんか?
だけど、反射的に反応する前にこの「FUCTFULNESS」に書いてある人間の本能について思い出し、これは「ドラマチックすぎる世界の見方」なのではないか?と一度、自分自身を批判的に見る目を持ちたいものです。
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